体力テスト
1:体力テストと試合展開との関連は?
自分の体力特性を知ろう
図1は同じ階級の国内トップ2 選手の300mインターミッテントテストの結果です。選手A は1本目と4本目のタイムはかなり早いのですが、すぐにバテてしまうのが特徴です。
一方で選手Bは1 本目はあまり早くありませんが、6本通してあまりタイムが低下しないのが特徴です。そのような選手どうしが実際に対戦するとどのような試合展開になるのでしょうか?
2人はある年の全日本選抜選手権の決勝で対戦しました。前半は選手Aが6 - 0と大差をつけていましたが、後半に逆転され、最終的に選手Bが優勝しました。つまり300mインターミッテントテストと同様の展開になっていたのです。
体力テストの結果を見て、ライバルよりも持久力が足りない、筋力が足りないなど、さまざまなトレーニング課題が見えてきますが、このように国内トップ選手でもタイプが全く異なります。自分の得意な試合展開を進めるためにも、体力測定の結果を有効に活用し、目標をもってトレーニングに励んでください。
図1 300mインターミッテントテストの結果
2:ロンドンオリンピック男子メダリストのフィットネス
世界で勝てるレスラーの体力とは
ナショナルチームではJISS(国立スポーツ科学センター)と連携し、定期的に形態・体力測定を行っています。とくに男子ナショナルチームは10年以上前から測定を実施してきているため、たくさんのデータが蓄積しています。ここでは2012年のロンドンオリンピックでメダルを獲得した男子選手3 名(湯元進一選手、松本隆太郎選手、米満達弘選手)の体力レベルを同階級トップ選手(当時55kg級〜66kg級の全日本大会準優勝以上)と比較してみましょう。
測定項目
①腹筋テスト
・腹筋台は傾斜40度
・全速力で30秒×3セット
・インターバルは30秒
②ロープ登りテスト
・足を使わずに腕だけで登る
・全速力で6m×2セット
・インターバルは30秒
③300mインターミッテントテスト
・全速力の300m走×6セット
・インターバルは10秒、30秒交互
図1 腹筋テスト
図2 ロープ登りテスト
図3 300mインターミッテントテスト
いずれの測定項目においてもメダリストの方が全日本トップ選手よりも優れている傾向にありました。つまり、国内でトップクラスの実力をもつレスラーと比べても、メダリストはさらに上をいく体力レベルをもっていたことがわかります。 これらの結果から、世界レベルで勝てるレスラーになるためには、筋力・筋持久力・全身持久力の全てを極限まで高めなければならないと考えられます。
3:レスラーのための体力テスト
腹筋、ロープ登り、300m走の3種目
1 「腹筋テスト」
腹筋は、レスリングにとってとくに重要なので、その能力をチェックしましょう。やり方は、30秒間の全力腹筋運動を30秒インターバル(休息)で3セット行います。そして、1セットごとの回数を記録します。日本代表選手では、傾斜が約40度の腹筋台を使い、膝を曲げた状態で腹筋テストを行っています。
2 「ロープ登りテスト」
上腕筋群は、レスリングにとってとくに重要なので、その能力をチェックしましょう。ここでは、ロープ登りを2 セット行います。お尻を床につけた姿勢から、できるだけ速く腕だけで登ります。男子は、6m、女子は、4mのところに目印をつけ、そこにタッチしてから降りてきます。計測は、登りはじめからタッチするまでの時間を計測します。休息時間はタッチしてから30秒間です。
3 「300mインターミッテントテスト」
レスリングは、上記2 つのテストで評価する能力だけでなく、当然、全身持久力も必要です。ここでは、レスリングの試合をシミュレート(模擬)したインターミッテントテストを実施します。300mの全力走を6本行います。
休息時間は、1本目と2本目、2本目と3本目の間が10秒、3本目と4本目の間が30秒、3本目と4本目、4本目と5本目の間が10秒です。要するに最初の3本が1ピリオド、次の3本が2ピリオドをシミュレートしています。(2013年までは2分3ピリオドだったため、休息時間もそれに合わせていました。)選手には最初の1本目から全力を出すように指示し、6本それぞれのタイムを計測します。
4:体力テストの評価~ジュニア・シニアの比較~
現在の自分の能力を知り、目標を決めよう
1 腹筋テストの評価
腹筋テストでは以下の点について、腹筋の能力を評価します。
①最高で何回できたか(1 セット目の最高回数)…爆発的なパワー
②全部で何回できたか(3 セットの合計回数)…腹筋の総合能力
③ 1 〜3 セットにおける腹筋の低下率…筋の持久力
図1 はシニア選手、ジュニア選手、カデット選手の結果です。1 セット目の最高回数に大きな差はありません。しかし、腹筋の総合能力を示す②合計回数では、シニア選手が86回、ジュニア選手が79回、カデット選手が73回でした。
これらの結果から、シニア選手の腹筋は、爆発的なパワーだけでなく、筋の持久力についても高い能力を持っていることがわかります。さらにオリンピックメダリストは優れた体力水準をもっています(P.30、「ロンドンオリンピック男子メダリストのフィットネス」参照)。この腹筋テストにより、爆発的なパワーがあるか、筋の持久力があるかチェックしてみましょう。
図1 腹筋テストの評価(軽量級)
2 ロープ登りテストの評価
①最速タイム…上腕筋群を中心とした爆発的パワー
② 2セット合計のタイム…上腕筋群を中心とした総合能力
③タイムの低下率…上腕筋群を中心とした筋持久力
図2 の結果をみると、ジュニア選手はシニア選手と同等の能力があるといえます。一方でカデット選手は1セット目はシニア、ジュニア選手とありま変わりませんが、2セット目はかなり遅くなっていることがわかります。
これらの結果から、ジュニア、シニア選手はパフォーマンスの低下率が低く、優れた筋持久力を持っていることがわかります。このロープ登りテストにより、爆発的パワーがあるか、筋の持久力があるがチェックしてみましょう。
図2 ロープ登りテストの評価(軽量級)
3 300mインターミッテントテストの評価
ランニングテストでは、以下の点に注
目します。
① 1本目は何秒で走れるか(最速タイム)… 1本目のベストタイムが②、③の基準となる
②合計タイム … 全身の持久力
③タイムの低下率 … 選手の特徴、傾向をみる
図3 の結果から、カデット日本代表もシニア、ジュニアと同等の全身持久力を持っていることがわかります。
試合を模擬したテストなので、選手の特性がでやすいことが特徴です(P.29、「体力テストと試合展開の関係は?」参照)。どのような試合展開でも勝てるように、一本目から出し切ること、後半しっかりと耐えることを意識して取り組みましょう。
図3 300mインターミッテントテストの評価(軽量級)
5:自分の体力を評価する
合計得点を計算してみよう
「腹筋テスト」、「ロープ登りテスト」、「300mインターミッテントテスト」を実施したら、それらの合計回数(腹筋)、合計タイム(ロープ、300m)をそれぞれ計算してみましょう。
その後、自分の成績を、下の表で確かめて、3種目の合計得点(300点満点)を計算してみてください。
この表は、日本代表選手(男子)の測定結果をもとに作成しています。
100点の成績は、日本代表選手の中で過去最高位の成績を示し、0点の成績は、同様に最下位の成績を示しています。
各項目をそれぞれ評価することによって、自分の体力の「弱点」をみつけることができます。
3つのテストは、いずれもレスリング選手に必要な体力ですので、自分に「弱点」項目があれば、普段のトレーニングのなかで、意識して強化に取り組むことが重要となります。
6:日本代表選手の成績
これが目標値だ
下の表に、日本代表選手(男子)の「腹筋テスト」、「ロープ登りテスト」、「300m インターミッテントテスト」の成績(平均値)のグラフを示しました。
これらの成績は、みなさんの目標値となると同時に、日本代表選手を目指すためには、階級別に下の表の成績を上回っておくことが必要となります。
右下に、階級別にみた3つのテストの合計点数も示しました。
この点数も、体力評価の目標値として、活用してみてください。
体力をしっかり強化して、みなさんも日本代表選手を目指しましょう!