トレーニング

1. レスラーに必要な体力

ハイパワーとミドルパワーがとくに重要!

 人が身体を動かすときのエンジンは、3つあります。1 つ目は、非常に大きな力を短時間発揮することが得意なハイパワーエンジンです。2つ目は、大きな力を40秒くらいまでの間発揮することが得意なミドルパワーエンジンです。3つ目は、小さな力だけれども非常に長い時間発揮することが得意なローパワーエンジンです。

 さて、レスラーには、どのエンジンが必要でしょうか? 実は、レスラーに必要なエンジンは、3つすべてです。だからこそレスリングは非常に激しく、厳しいスポーツなのです。しかし、あえてどのエンジンが重要かといえば、ハイパワーとミドルパワーのエンジンです。

 ハイパワーのエンジンは、短時間の全力運動を十分な休息をはさんで何度も行うことで高めることができます。ミドルパワーのエンジンは、40秒前後の全力運動を何度も行うことで高めることができます。そのほかにも、相手より素早く反応する俊敏性や瞬発力、また、身体全体の柔軟性など、さまざまな体力が要求されます。

 それぞれのエンジンをとくに鍛えたアスリートは、そのエンジン特有のからだつきに発達します。陸上競技でいえば、ハイパワーエンジンを鍛えた100m走者、ミドルパワーエンジンを鍛えた400mや800m走者、ローパワーエンジンを鍛えたマラソン選手は代表的な例です。

2. トレーニングの適時性について

鉄は熱いうちに打て

 ノーベル医学生理学賞受賞のヒューベルとウィッセルの実験で、生まれたての子ネコのまぶたを縫い合わせて、ある期間、光を遮断すると、その後に目を開けさせても見えるようにはならないという実験結果があります。これほど極端ではないにしても、ある能力を最大に発達させるには、適切な時期に適切なトレーニングをすることが重要です。図1は、20歳までに人の各器官、各機能がどのように発達するかを示したスキャモンの発育発達曲線というものです。それぞれの器官、機能が、自然に高まる時期に、さらにトレーニングで刺激を与えることは重要です。

 運動能力に限っていえば、小学生期は、神経系の発達が著しくなりますので、器用さが求められるような動きの習得に適した年代です。中学生期は、持久力が発達する時期です。筋持久力や全身持久力を身につけるのに適した年代です(図2)。高校生期以降では、骨格の成長が完成に近づきますので本格的な筋力トレーニング開始が可能であり、筋肉を大きくするのに適した年代となります。

 

図1 臓器別発育パターン

図2 年齢と筋持久力トレーニングの効果

★負荷をかけての腕の曲げ伸ばしのトレーニングをさまざまな年代で行わせた結果、14歳前後で筋持久力が最も向上することがわかった。

3. ジュニア期に必要なトレーニング

トレーニングの5大原則を知ろう!

 日ごろのトレーニングの効果をあげるには、以下の5 大原則に注意して実施することが重要です。

漸進性の原則

トレーニングの負荷を徐々に上げていきましょう。あせって急激に負荷を高めると逆にケガのリスクが高まってしまいます。

全面性の原則

全身をバランスよく鍛えましょう。レスリングは、全身の筋力が必要です。バランスよく鍛えましょう。

意識性の原則

トレーニングを行う目的を理解し、トレーニングしている部位に意識を集中しましょう。

個別性の原則

年齢、体力レベルの違いなど、トレーニングの目的は、個々に異なるので、自分にあったトレーニングをしましょう。

継続、反復性の原則

トレーニングは、継続、反復してこそ、効果が得られます。3日坊主にならないよう頑張りましょう。

 また、ジュニア期は、前章で述べたように神経系の発達が著しい時期ですので、レスリングに必要な基本技術の習得に努めましょう。この時期に身につけた技術は、将来の柱となります。また、レスリングに限らずさまざまなスポーツに親しみ、いろいろな動きの習得に努めましょう。そして、中学生期は筋持久力や全身持久力が高まる時期ですので、意識的にスタミナをつけることに努めましょう。

 

4. ジュニア期に楽しみながらできるトレーニング

楽しみながらトレーニングをしよう!

 レスリング競技では、各体力要素に適したトレーニングを組み合わせて総合的に体力を高めることが大切です。また、トレーニング方法は、負荷、強度、回数、時間など、そのトレーニングの目的に応じてトレーニング内容を変える必要があります。

 ところで、トレーニングと聞けば、みなさんはバーベルなどのトレーニング器具や機材を使用することを思い浮かべることが多いと思います。対人競技であるレスリングでは、用具や機材を使わなくても自分の体重やパートナーの体重を負荷にしてさまざまなトレーニングを仲間と楽しく行うことができます。とくに、ジュニア期のトレーニングにおいて、「楽しみながら」トレーニングすることは、レスリング生活を送るうえで、とても大切なことです。


 今回は、レスリングのマット上で行える『壁倒立歩行じゃんけん』と『腹筋じゃんけん』のトレーニングを紹介します。ここでは、ルールを決めてジャンケンで勝負を行う方法です。みなさんも自分たちで考えて相談しあって、楽しくルールを決めて行いましょう。

壁倒立歩行じゃんけん

①壁の端に分かれて壁倒立する。(注)人数や体力に合わせて、①の距離をもっと長くとった位置から行ってください。

②お互い中央にめがけて競争移動。

③中央付近でお互いじゃんけんし、負けたほうは①の最初の位置に戻りもう一度。

 

腹筋じゃんけん

①2人組で足を組んで、ジャンケン勝負、ルールに沿って上体起しを行う。

②回数やセット数、また、いろんな人とペアを組み直したりしてください。

③あいこの場合は、お互いに腹筋をする。