レスリングにみられるケガの特徴

1. 概説

ケガについて知ることがケガを少なくする

ケガ(外傷・障害)とレスリング、ジュニア期にみられるケガの特徴

 レスリングは格闘技という特性上、ケガの危険性がまったくないというわけにはいきません。しかしながら、強いレスリング選手は、ケガの頻度が少ないだけでなく、ケガに対する理解力も高いようです。ここでは、レスリングで多くみられるケガとその予防について述べますので、練習や試合の際には細心の注意を払い、ケガのないレスラーを目指してください。

まとめ

 ジュニア期には、シニアになった際に大きな障害の原因となるケガも多くみられます。疼痛や不安感などの症状を引きずったままの練習を避け、医療機関を受診して早期の対応に努めてください。

 また、無謀な防御をさけ、正しい受け身の修得、基礎的で安全な筋力トレーニングを励行する必要があります。

2. 頸部(くび)のケガ

頸椎損傷

頚部のケガ〔頚椎損傷〕

 頚椎はその構造上、強い屈曲力(おじぎをする方向)や軸圧(頭上から押しつける力)に弱く、頚椎椎間板ヘルニアや頚椎の破裂骨折など、選手としてだけでなく、生命に関わる重篤な頚くびのケガにつながる場合があります(図1)。

【予防法】レスリングにおいて、頚の筋力は競技においても、重篤なケガの予防においても非常に重要です。日頃からしっかりとトレーニングを行いましょう。また、頚を屈曲した姿勢で技(投げ技、タックル)を仕かけることは非常に危険です。しっかりと正面(前方)を見る構え(習慣)を身につけてください。

図1 頚椎に危険な体勢

3. 腰のケガ

頸椎分離症(分離すべり症)

腰のケガ〔腰椎分離症(分離すべり症)〕

 成長期にみられる代表的な腰のスポーツ障害で、腰の前後屈や跳躍運動の繰り返し運動による疲労骨折の一種と考えられています。適切な時期に診断と治療が行われれば、完治する場合も多いので、このケガに対する理解の有無が重要なカギを握るといえます(図2)。

【症状】小学生〜中学生の時期では比較的症状が軽いことも多く、治療のタイミングを見逃しがちです。腰の前後屈や、しゃがんだ姿勢から立ち上がったときに腰痛を自覚する回数が増えてくるようなら、整形外科を受診しましょう。このケガはレントゲンなどの画像検査を行わないと診断が不可能です。

【治療】ケガの発生から診断確定までの期間が治療成績に影響します。早期に診断が確定した場合は、コルセットの装用と体幹の安静(数カ月)が原則です。陳旧性(かなり以前に発生した)分離症の場合は、くわしい画像検査ののちに医師と相談して治療方針を決定してください。

【予防】腰に加わる、過剰な負荷(重量、回数)を控える必要がありますが、許容できる負荷の量には個人差があります。このため、腰痛などの症状を自覚したら早めの医療機関でチェックを受け、腰痛を発生することなく、練習が継続できる環境を整える必要があります。

図2 腰椎分離症の発生部位

4. 肩のケガ

肩関節脱臼

肩のケガ〔肩関節脱臼〕

 タックルに入ったときに、タックルを切られ、肩関節が勢いよく伸びきったときに発生することが多いようです。また、投げられたときに、受け身をとらずに不用意に手をつくなどして発生することも多いようです。このケガは、反復性(クセ)になりやすく、初回受傷時の適切な治療が重要です。

【症状】初回であっても、脱臼感(はずれた感覚)を本人が自覚することが多く、自力で腕を上げることが困難になります。また、一瞬脱臼しても、反動などで自然に整復する場合もあります。

【治療】むやみに動かさず、すみやかに医療機関を受診しましょう。小さな骨折をともなう場合や、関節の構成体が損傷している場合もあるので、画像検査を受けるほうがよいでしょう。初回脱臼の新鮮例では、肩関節を外旋位で固定(約3 週間)することで、再脱臼の頻度が減少しています(図3)。残念ながら反復性(習慣性)になってしまった場合は、手術が必要になる場合もあります。

【予防】肩関節は正常な状態であっても、腕が伸びきった状態、あるいは、脇が完全にあがってしまった状態は、非常に脱臼しやすい肢位であるといえます。みずから安易にこのような肢位にならないように心がけましょう。また、関節の構造が不完全なジュニア期には、きちんとした受け身をとる習慣を身につけることです。一瞬の数ポイントの損失のために、数カ月から数年のブランクをつくるリスクを冒すことは賢明ではありません。

図3 肩関節の外転-外旋位の保持

5. 肘のケガ

内側側副靱帯損傷、肘関節脱臼

肘のケガ〔内側側副靱帯損傷、肘関節脱臼〕

 肘関節の脱臼は、肩関節脱臼と同様に、投げられたときの無理な防御、不用意に手をついたときに発生する場合があります。また、グラウンド(寝技)の防御の際に、マットと自分の体幹の間で腕がロックして内側側副靱帯が損傷する場合も多いようです。

【症状】肩の脱臼と同様に、本人が脱臼感を自覚します。肘内側の靱帯損傷をともなう場合が多いこともあり、脱臼整復後も疼痛が持続し、関節の腫れが増強する場合もあります。

【治療】すみやかに医療機関を受診し、画像検査と整復を受けます。整復後は腫れの増大を防ぐために固定と圧迫、冷却を行います。靱帯損傷の程度の評価を受けて、以後の治療法を決定します。

【予防】肩関節と同様に、正しい受け身を身につけることが重要です。

6. 膝のケガ

(内側側副、外側側副、前十字)靱帯損傷(内側、外側)半月板損傷

膝のケガ〔(内側側副、外側側副、前十字)靱帯損傷、(内側、外側)半月板損傷〕

 膝のケガは、レスリング(とくにフリースタイル)のなかでは最も多くみられるケガといえます。膝の外側からタックルを受けることにより内側側副靱帯損傷や前十字靱帯損傷、外側半月板損傷が発生します。

 また、片足タックルを受け、足首を大きく内側に持ちあげられることによって外側側副靱帯損傷や内側半月板損傷が発生すると考えられます。このうち、前十字靱帯損傷や半月板の損傷は手術が必要になる場合も多く、十分な注意が必要です。

【症状】膝関節の疼痛と腫れが出現し、歩行が困難な場合もあります。また、歩行が可能であっても腫れが強い場合は医療機関を受診して、画像検査を受けるほうが望ましいです。

【治療】膝のケガでも損傷部位や程度によって治療方針が異なります。きちんと医療機関を受診し、治療に向けての指示を受けてください。自己判断による対応では、症状の悪化や後遺障害へつながるおそれがあります。

【予防】スパーリングへ入る前の十分な準備運動、ストレッチが重要です。また、下肢の筋力強化やバランス保持訓練、着地時に膝が捻れたり、ぶれたりしないような基礎的な動作訓練や筋力強化も重要とされています。受傷後、テーピングやサポーターはある程度は有用ですが、十分とはいえません。完治しない状態で、短期間に再受傷すると、膝の不安定性が大きくなってしまいますので、初回受傷時にしっかりと治すことが必要です。